ホテルニューオータニ大阪 DXは省人化ではなく接客品質向上のために
言葉の壁を越えたおもてなしをめざす

大阪城天守閣を望む老舗ラグジュアリーホテル「ホテルニューオータニ大阪」。40年の歴史を重ねながら「お役に立つ」「喜んでいただく」「楽しんでいただく」「寛いでいただく」を掲げ、ゲスト一人ひとりに寄り添うサービスを追求しています。同ホテルでは、2025年1月にKOTOBALを導入しました。
インバウンド需要の拡大や人手不足を背景にホテル業界ではDX投資が進んでいますが、同ホテルがめざしたのは単なる業務効率化ではありませんでした。そこには「現場スタッフが安心して接客できる環境をつくる」という現場起点の発想がありました。
(取材日:2026年5月11日)

ホテルニューオータニ大阪

まとめ

  • 施設名 ホテルニューオータニ大阪
  • 業種 ホテル業
  • 課題 ・海外ゲストの増加・多様化により、スタッフが外国語対応に心理的な負担を感じていた
    ・言葉の壁があることで、めざす120点の接客サービスが十分にできていなかった
  • 目的 ・言葉への不安を抱えずに、一定水準以上の接客品質を提供できる環境を整えること
    ・英語圏以外のお客様にも臆せず接客できる環境をつくること
  • 効果 ・多言語対応を現場で即時に行えるようになり、外国人対応への心理的ハードルを低減
    ・「何語かわからない」を解決し、対応スピードと接客品質の向上につながった
フロントに透明ディスプレイを1台設置。ゲストの表情や反応を見ながら対応できる。

外国人ゲストにも120点の接客を

同ホテルでは、すでに数年前からテレビインフォメーションシステムやカードキー連携など、宿泊者向けDX施策を積極的に推進してきている。そうした取組みを進めるなかで、「現場スタッフのために何か貢献できることはないか」という視点から検討を重ねた結果、浮上したのが多様化する外国人ゲストへの多言語コミュニケーション支援だった。

「海外のお客様には、どうしても言葉の壁があり、私どもがめざす120点の接客サービスが十分にできていないのではないかと感じていました」

そう語るのは、管理部管理課(施設管理・情報通信)統括支配人の平嶋和幸氏だ。大阪・関西万博によるインバウンド増加を見据え、「英語圏以外のお客様にも臆せず接客できる環境をつくりたかった」と振り返る。

実際に大阪・関西万博の開幕後には、宿泊客の国籍や文化的背景はさらに多様化した。中国、韓国、台湾に加え、ヨーロッパ、南米、東南アジアなど世界各国からのゲストが急激に増加。さらに、コロナ禍以降は団体旅行から個人旅行へシフトし、ガイドを介さずスタッフが直接対応する場面も急増した。

KOTOBAL導入前は、翻訳サイトを開いて一文ずつ入力して対応したり、紙に印刷して見せるなど、現場の負担は大きかったという。

26年7月時点では、フロントとゲストリレーションズには透明ディスプレイを設置し、KOTOBALを接続。レストランでは持ち運びしやすいタブレット端末でKOTOBALを運用。チェックインだけでなく、クレーム対応や体調不良時の病名や持病のヒアリングなど、より複雑なコミュニケーションにも活用している。

「何語かわからない」を解決した瞬間

宿泊部フロントオフィス課統括支配人の賀谷努氏は、印象的なエピソードを振り返る。

「ある日、フロントに来られた外国のお客様が、何語を話されているのかまったくわからないことがありました。唯一聞き取れた『カンボジア』という言葉を手がかりに、KOTOBALの言語一覧をお見せしたところ、お客様ご自身が『クメール語』を指差されました。その瞬間、一気にコミュニケーションが取れるようになったのです」

意思疎通が可能になった瞬間、ゲストの表情はぱっと明るくなったという。

さらに、聴覚障がいのあるゲストへの対応にも活用が進む。これまで紙に手書きしていた案内を、KOTOBALの音声筆談機能によってリアルタイムに文字化され、より正確でスムーズな対応が可能になった。このようにKOTOBALは単なる翻訳ツールにとどまらず、多様なゲストに対応するアクセシビリティ向上にも貢献しているのだ。

使用言語を選択すると翻訳がスタート。文字がディスプレイ上に表示される。
レストランではアレルギーやヴィーガンなどの情報を必ずヒアリングしている。

朝食会場で発揮された即戦力

同ホテルで、最も活用されている場所の一つが朝食会場だ。飲料部レストラン課統括支配人の田中章裕氏は、「英語の『バウチャー(朝食券)』という言葉すら伝わらないこともあります」と話す。

特に中国や韓国の年配客、近年増加するインドからの宿泊客など、英語を話さないゲストへの対応では、ジェスチャーやイラストで説明する場面も少なくなかった。

KOTOBAL導入後は、入口でスタッフがタブレットを用いて人数確認やアレルギーの有無、宗教上の配慮事項などをその場で翻訳。以前は英語の対応ができるスタッフを探すのに10〜15分かかることもあったが、今ではその場ですぐに対応できるようになった。ゲストのニーズに合わせてベジタリアンコーナーへ案内したりと、接客品質の向上にも寄与している。

「レストランはその場その場が本番。複雑な食材名の聞き取りや、会話のスピードが早い場合でも、その瞬間にどれだけスムーズに理解できるかが重要です」と田中氏は強調する。

「外国人対応を避けたい」という心理を変えた

田中氏が繰り返し語ったのが、スタッフの心理的負担の軽減だ。

「正直、海外のお客様がいらっしゃると逃げてしまうスタッフもいました。オーダー内容がわからないからです。しかし、KOTOBALがあることで『積極的に接客しよう』という意識が現場に広がりました」

同ホテルでは現在も、正社員向けに英会話研修を継続している。しかし、「英語が話せること」と「外国人対応に踏み出せること」は別問題だったという。KOTOBALは、翻訳機能そのものだけでなく、スタッフの不安を取り除き、接客への一歩を後押しする存在として機能している。

DXは省人化ではなく接客品質向上のために

ホテル業界では慢性的な人手不足が続くが、同ホテルでは「単純な人数不足ではなく、即戦力不足が課題」と捉えている。かつては英語対応に専任スタッフを高時給で配置していたが、今では現場スタッフ全員が一定レベルの多言語対応を行えるようになった。

「DXというより、サービス品質を落とさないための支援ですね」と平嶋氏は語る。一方で、「翻訳機を導入すると接客が機械的になるのではないか」という懸念もあるが、現場ではそうした声はほとんど聞かれないという。むしろ、言葉の壁による戸惑いや不安が減ったことで、スタッフはこれまで以上に積極的にゲストへ目を向けられるようになった。

賀谷氏は「母国語で話せるという安心感から、お客様の表情や反応にも余裕が生まれるようになりました。喜んでご滞在いただける重要なツールの一つです」と話す。

つまりKOTOBALは、翻訳機能にとどまらず、スタッフとゲスト双方の心理的な距離を縮める役割も果たしているのだ。

ホテルニューオータニ大阪がめざすのは、日本人ゲストに提供してきた「安心・安全」を、外国人ゲストにも同じ水準で届けること。KOTOBALは、その実現を支える「現場起点のDX」として、確かな存在感を発揮している。

ホテルニューオータニ大阪
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